2ページ目/全4ページ




   もともとゾロも口が回る方では無かったので、だんだんと付き合っている事が面倒臭くなってきた。

    別にどこでも
良いような気もしてきた。

   「宿屋は他にもあるぞ。どうしても、ここが良いのか?」

    ゾロが最終確認のために訊ねると、サンジは真剣な表情でこんな事を聞いてきた。


   「てめぇは、こういう宿に入った事があるのかよ? 」

   「……ああ、まあな。」

   ゾロは大昔、道場の連中に連れてこられたような気がする。

    確か、道で声をかけてきた女も一緒だった。


   ゾロは、こういう事にはほとんど関心も無いので、すっかり忘れていた。

   そして、別に楽しい事でも無いような気がする。

   「ふ〜ん、そうかよ。てめぇは入った事があるのか? なのに、俺はダメって変じゃね〜か!

    俺も絶対に入るぞ! 決めた! 今晩は、ここに決定だ! 」


   サンジはいつも、やたらゾロと張り合おうとするのだった。

   サンジ王子は、鋭い目で従者を睨んでいる。

   「てめぇが知っていて、俺が知らないなんて、むかつくんだよ! 」

   王子様がそう決定したので、従者のゾロは従うしかない。

   (俺は、何があっても、知らねぇからな。)

   肩をいからせて、派手なネオンの下をくぐっていくサンジの後を、

    ゾロは溜め息をつきながら追いかけた。



                         


   「へえ、安いわりに、なかなか綺麗な部屋だな。」

   サンジは満足そうに微笑むと、ソファーに腰かけ、座り心地を試していた。

   そのスプリングはあまり弾まず、とにかく硬いので、サンジの眉間には皺がよっていた。

   ゾロとサンジが通された部屋は、クリーム色の壁紙の落ち着いた雰囲気だった。

    窓は小さいが夜の街の明かりが輝いて見え、窓辺から室内に向かって飾られている花も

    豪華だった。桃色や赤など暖かな色彩のバラが咲き乱れている。


   ただ、家具らしいものは、ほとんど無く、机とサンジが座っているソファーと、

    やたら大きな鏡と、そして、ベッドがあるだけだった。


   サンジ王子は興味深そうに立ち上がると、そのベッドの間近まで近寄り、怪訝な表情をした。

   「なあ、何でベッドが一つしか無いんだよ? 」

   室内の中央には、やたら大きな丸いベッドが一つ置かれていた。

   それも、白いレースと金色の刺繍糸で飾られ、何故か赤いバラの花ビラが撒いてあったりする。

   何だか嫌なサービスの部屋だな、とゾロも眉をひそめていた。

   さらに、室内には香が焚かれている様子で、部屋中に花の香が漂っている。

   「二人でこれに寝るのか? 」

   サンジがさらに聞いてきたので、ゾロもこう答えるしか無い。

   「まあ、そういう事だ。こういう部屋なんだよ、わかったか? 」

   なるほどな〜と、サンジは一人で頷いていた。

   「だから、宿代が安いんだな。ベッドが一つしか無い分、割引の宿。そういう事なのか。」

   結局、サンジ王子は理解していなかったが、もう面倒臭くなったので、

    ゾロは勝手にソファーにゴロリと横になった。


   「俺は別にここで良い。お前が一人でベッドを使え。」

   サンジ王子は少し困った顔になったが、やはり男二人でベッドを使うのは、嫌だったらしく、

    ゾロの申し出を大人しく了承した。



                         


   二人は、その後、部屋にある風呂で長旅の疲れを落とし、頼むと部屋に軽食が届くので、

    それで腹を満たした。

    
とにかく風呂だけはやたら立派で大きく、金の細工で飾られた湯船の中にはバラの花が浮いていた。

   ゾロは気が滅入ってすぐに出たが、サンジは風呂がかなり気に入った様子で、長い時間楽しんでいた。

   それに、部屋まで食事を運んでくれるなんて親切じゃないか、と王子はかなりご機嫌になっていた。

   宿泊費用が安いので、味に関してはうるさい王子も、今回は仕方無いと思ったらしい。

   ゾロは酒ばかり飲み、サンジに食事を取るように怒られてしまった。

   その後、電気を消して布団に入ったのだが、静かになってみると、奇妙な音が響いてくる。

    話し声や、ベッドのきしむ音や、うめき声……。

   ゾロは、それが何かすぐに気がついてしまったが、ベッドで休んでいる王子はワケがわからないのか、

    うるさいな〜なんて言いながら、もぞもぞと寝返りをうっていた。


   どうやら、この宿はかなり壁が薄いらしい。

   そのうちに、はっきりと叫び声や喘ぎ声が聞こえてきたので、さすがの王子にもわかったらしい。

   「おい、何か両隣の部屋が凄いんだが……。」

   「だから、ここはそういう事をする宿なんだよ。わかったか? 普通の恋人同志もいるけどなぁ。

     ここでは、娼婦や
男娼が客を取っているんだよ。」

   ゾロがそう早口で言うが、サンジはまだ首をかしげている。

   「そういう事をする宿って、どういう事をするんだ? 客っていうのは、何の客だ? 」

   ゾロはだんだんと嫌になってきたので、押し黙ってしまった。




                          
          1ページ目へ戻る               3ページ目へ進む



          小説マップへ戻る